友達以上恋人未満


「何でクリスマスってこんなにカップルが多いんだよ・・・」
死にそうな、うんざりした声で水野が呟いた。
知らんわ、と一蹴する。駅前通り。いつもより確かに人がおおい。しかもほとんどがカップルだ。
その他、親子連れ、プレゼントを選ぶ父親、ナンパ待ちの女、その反対、と。
「どうしてこう浮かれるんだか。キリスト教でもないくせに」
「ええやん。楽しいしな」
まあ、ケーキ食えるのは嬉しいけど、と寒そうにポケットの中に手を入れた。
クリスマスだというのに今日は練習試合で、片づけを行っているうちに辺りは暗くなってしまった。
「シゲはさ、彼女とかいねえの?」
「興味なしや。たつぼんは、訊くまでもあらへんよな?」
「つーか嘘つくなよ。この前も誰かシゲが年上の女と歩いてるの見たって」
「嘘やないもん。あれは逆ナンされたんやで。それでホテル行っただけや」
「・・・なんでホテルに行くんだよ?」
ああその手の情報に疎いお子様だっけ、とシゲは苦笑して、話を違う方向に移した。
寒い。ちかちか点滅するイルミネーションに集る人々を掻き分けて歩いていく。
水野の鼻の頭は赤く染まっていて、自分と同じだと確信する。
彼女、なんか興味ない。女なんか、特に。
水野と出会ってから自分の価値観は全て変わってしまった、と思う。
気をつけていなければ気軽に水野に可愛いと言ってしまいそうなぐらいだ。
クリスマス。
恋人。
聖なる夜なのに、何故かとても寂しい。
「・・・一人って寂しいわ」
「俺がいるじゃん。失礼だな」
いや、そういう意味じゃなくて。
ツッコミをいれようかどうか迷ったが、その先の説明のしかたが思いつかなかったので
保留にでもしておくか、と自問自答した。そのとき、横で水野が小さくくしゃみをする。
そんな仕草でさえもいとおしく思える自分は重症かもしれない。
「そんな薄着でおるからや」
「うるさいな。知らなかったんだよ。こんなに冷えるなんて」
素直じゃない、と苦笑しながら改めて水野を眺める。
ジャージ姿の水野は、マフラーどころか手袋さえも持っていない。
自分はウィンドブレーカーにマフラーという、防寒対策をしているわけで。
ふっと溜息とともに笑って、シゲは自分の首に巻いていた薄いベージュのロングマフラーを外した。
そして、水野の首に巻きつける。何かのドラマのようだ。
「おい、シゲ?」
「どや?ちょっとはええ、かな?」
いきなりのことで水野は少し驚いたようだったが、照れたようにありがとうといった。
「温かいよ。シゲは寒くないのか?」
「余裕やって」
ちょっと寒かいが、それは水野の笑顔が見れたのでよしとする。
恋をする、とはこういうことだ、と改めて思った。
「・・・シゲの匂いがする」
水野がマフラーに口を埋めながら、くぐもった声で言った。
シゲは驚いて横を振り向いた。幸せそうな、水野の顔がある。
ああもう。狙ってないからたち悪いわ。
「たつぼん、メリークリスマス」
「今更何だよ・・・」
「俺寄るとろあるさかい、ここでええわ」
「・・・彼女?」
「ちゃうちゃう。まあヤボ用?」
「ふーん。じゃあな、シゲ。メリークリスマス」
不審そうに見つめてから、ふっと笑った。
自分の匂いがついたマフラー。
それを渡したのは、覚えておけという証拠。
「プレゼント。たつぼん、そのマフラーやるわ」
「は?え、いや悪いって・・・」
「ヘーキやって。シゲちゃんの愛情こもったマフラーやで」
「気色悪い。つーかこれ市販だろ」
「細かいことは気にしない」
「・・・あ、そ。・・・シゲ、ありがと」
寒そうに、すこし前かがみになって歩いていく水野の背中を見つめながら、
くしゃみを一回して、鼻のしたを擦る。
「・・・あー俺、明日風邪引くかも・・・」
寝込んだら、看病してくれたら嬉しい、なんて叶いもしないことを考えて、
せめてこの冬手袋の一つは欲しいと思い駅前のほうに戻った。


来年は一緒に過ごせることをひそかに祈って。

 
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