ハローバースディ


新しい機種にした携帯に誕生日のメールと電話が散々というほどにきた。
シゲは自分のマンションのフローリングに寝転びながら携帯を見つめる。
「・・・忘れてるんかいな」
モノは、数じゃない。質だ。

一番大事な人から何も連絡が無い。

毎年水野は律儀に誕生日になると電話をかけてきてくれた。
それは試合の後でくたくたの時だって、学校の部活が長引いた時だって、必ず12時前には。
それなのに、今年は来ない。確か試合がないと言っていたはずだ。
普通の友人用の着メロが鳴る。どうでもいい、高校のときの女友達からのメールだ。
内容を読む気にもなれない。
「・・・あほらし。寝よ」
もう待つのも面倒くさくなって、シゲは携帯を置くとその横で眼を閉じた。



煩い。
何かの音が響いている。
「・・・何や・・・?」
機嫌悪く眼を開けると、部屋はいつの間にか真っ暗になっていた。寝過ごしたらしい。
横においてあった携帯のディスプレイが点滅しながら着メロを鳴らしている。
電話だ。シゲは出るのも面倒くさくて居留守を使おうと思った。が。
「・・・この着メロって、まさか」
携帯のディスプレイには『水野竜也』。待ちに待っていた、彼からの電話。
「やば・・・!」
急いで通話ボタンを押す。もしもし?という不機嫌な、とても心地よい声が耳に響く。
『お前なぁ・・・さっさと出ろよ。何分待たせてんだよ』
「すまん。堪忍。今寝とった」
『まぁ、いいけど。今年はマンションなのか?』
「一人で過ごしたい時もあるんや」
『うわっ、寂しい』
水野は誕生日の話題を振ってこない。何のために電話をしてきたのかが分からない。
仕方なくシゲからその話題を振ってみることにした。
「寂しいシゲちゃんのお家にたっちゃんが誕生日のお祝いで夜這いしてきてくれへんかな」
『自分で言うなよ・・・』
軽く流される。というか呆れられている。一応誕生日ということを主張したつもりなのだが。
電話に出なかったことを怒っているのだろうか。
「たつぼん、怒っとる?」
『何が?』
「・・・」
『シゲ?なんだよお前。どうかした?』
「何でもあらへんよ」
水野は自分から滅多に電話なんかしてこない。一年に3回あればいいほうだ。その1回にシゲの誕生日も含まれている。
何やねん、一体。
そこまで考えて、ふっと思う。そういえば、最近会っていない。お互いのスケジュールが全く合わないのだ。
声を聞く。会いたくなる。こんな機械越しの偽者の声じゃなく。
『・・・おい、シゲ。聞いてるのか?』
「たつぼん」
会いたい―・・・と言う前に、家のチャイムが鳴る。何てタイミングの悪い、とシゲは舌打をした。
『今、誰か来なかったか?』
「・・・つまり、出ろと?」
『また後でな』
「ちょ・・・たつ!?た・・・あのドアホ・・・」
切れた。機械音しか聞こえてこない携帯を投げると渋々玄関に足を運ぶ。
「どちらさん?」
自分で聞いてても刺々しい声なんだから、相手には相当だと思う。
ビビラしたかなと思いながら、チェーンロックを外してドアを開けるとシゲの身体は固まった。
「・・・え?」
「誕生日おめでとう。シゲ」
携帯を片手にもった、水野がいた。
もしかして見間違いじゃないかと思って目を擦るが、水野の姿は消えない。
「たつぼん?」
「じゃなきゃ誰がいるんだよ。寂しい藤村君の家にわざわざ来てやったのに」
前と変わらない笑顔で笑う水野が、とても愛しく思えてシゲは水野を抱きしめる。
と容赦なく足蹴りが跳んでくる。
「痛いんやけど・・・」
「うっせえ。ここどこだと思ってんだ」
「中ならいいの?」
「・・・帰る」
「冗談!冗談や。ほんま嬉しい。おおきに」
水野は少し頬を染めて、ばか、とだけ言うと部屋の中に入っていった。
二人だけのパーティ。部屋にビールは何本あったか思考を巡らしながら、シゲは水野の背中を追う。



 
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