「水野って、不器用?」
ボタンが取れかかったYシャツ片手に、針穴に糸を通せない水野を見て、郭は苦笑いをした。
うるせえほっとけ、と怒鳴られて、やれやれと溜息をついた。このままじゃ一生かかっても
Yシャツにはたどり着かない気がする。穴に糸は入っても、すぐにまた取れてしまうのだ。
いったい小学生の家庭科の授業を、彼はどうやって乗り越えたのだろうか。
「水野、貸して。俺が縫うから」
「自分のくらい自分で出来る」
Yシャツを水野から取ろうとすると、水野は絶対に貸さない、と言って離さない。
怪我しても知らないよ、と忠告するが、それも流されてしまった。
「っうわ・・・」
お約束の展開。
針が指に刺さって、一滴だけ血が流れた。
全く・・・と聞こえないように呟いて、郭は水野の手を取った。
「ちょ・・・おい郭!?」
ぺろり、と人差し指を一舐めすると、苦い鉄の味が広がった。
けれどもそんなに苦くない気がする。水野だから?なんて本人が訊いたら血相を変えて
怒りそうな言葉だ、と思う。
「はい。消毒。じゃあ続きは俺がやるから」
真っ赤になっている水野の手からするりとYシャツを抜き取って、郭は器用にボタンを縫う。
一分そこそこで、元の位置にボタンが戻った。
ずれも無くぴしっと固定され、半永久外れないような感じだ。
「ほら、水野。・・・何いじけてるの」
「いじけてない」
あっという間に縫い上げてしまい、ああちょっと皮肉っぽく感じたかな、と予想通り、
水野は納得のいかない顔で自分を見つめている。
いじけてる。完全に。
「何でお前はそんなに器用なんだよ・・・」
呆れたような顔をする水野に、郭は苦笑いをする。
水野は気にしているようだが、このほうがいいと郭は思う。
だってさ、水野が完璧人間だったら怖いからね。
「俺は水野のそういうところも好きだけど?」
ひっくるめて全部好きだよ、と真顔で言ったら水野は顔をふいと背ける。
けれどもそれが照れ隠しだと分かっているから、郭は別に気にもしない。
「可愛いよね。水野って」
「どこがだよ・・・」
「不器用なとことか、そういう照れ隠しとか」
にっこりと笑顔を向けると、ああもう、とか日本語じゃない日本語が聞こえてくる。
赤く染まった頬を隠すように、水野が下を向いて、腕で顔を隠す。
「よくそんなの真顔で言えるよな・・・」
恥ずかしくないのかよ、とぼそぼそと水野が口を動かすのが見えて、郭はYシャツを畳みながら、
「恥ずかしいわけないでしょ。本当のことだからね」
と、水野のほうを向いて言った。
「恥ずかしいんだって。それが」
「別に、みんなの前で言ってるわけじゃないでしょ?」
「まあ、それは・・・」
そうだよな、とやっと顔をあげた水野に、はい、とシャツを渡した。
ありがとう、の前に唇を奪ってみると、またタコのように真っ赤になった水野が
せっかくたたんだYシャツを投げつけてきて。
「報酬くれるなら、いつでも頼んでよ」
キスなんて、安いものでしょ、と笑うともう馬鹿死んじまえ!!と怒鳴られる。
あーあ。じゃあしょうがないな。今のうちに、全部のボタンを外しておこうかな。
「・・・ありがと」
「どういたしまして」
次の日から、水野のYシャツは必ず一個ボタンが取れていた。