ありがとうのうた


その背中だけを見つめて。

大丈夫だよ、と言いかけて、痛みに顔がゆがんだ。全然大丈夫じゃないな、と
我ながら情けないことを思っていたら、自分を呼ぶ声だとか、周りのざわめきとか、
全部遠くに消えていった。見えるのは、青々としたグラウンドだけ。
怪我をした自分が一番よく分かっている。
もしかしたら、もう、戻ってこれないんじゃないかということを。
「風祭!!風祭!!」
水野の叫び声が、脳裏に浮かぶ。浮かんだのではなく、水野が叫んだのかもしれない。
ずっと、水野の背中を見つめていた。
シゲのように、藤代のように、水野からパスを貰って、シュートを決める。
自分には、2人のような実力は無い。そんなこと分かっている。百も承知だ。
だから、さっきの水野のパスに合わせられて、シュートを決められて、嬉しかった。
水野が初めて自分を認めてくれた、そんな気がしたのだ。
「水野、君」
やっと出た声は、自分で言うのもなんだが頼りなかった。
それでも、少しでも君を安心させたいんだ。
だから、そんな顔しないでよ。
さっきみたいに、笑って。
「もうすぐ、救急車来るからな!あと少しだから・・・」
泣き出しそうな水野の顔が段々かすれてくるのを感じて、ああ、僕どうしたんだろう、
と自分に問いかけた。答えなんて出ない。出るはず無い。
きっと、水野は、自分の怪我を、直前に出したパスの所為だと考えているのだろう。
そういう性格だ。

眼を閉じる前に、まだ言いたい事がある。
言えなかったこと、
言わなくちゃいけなかったこと。
ゴメンね、大丈夫だよ。
そんなことで、水野は納得しないことなんて、知っているから。



サイレンが、遠くから聞こえた。

「水野君」
「痛む、よな・・・もうすこしだからな」
「水野君・・・」
霞むように、水野の顔が見えなくなっていく。こういうのを、意識が飛ぶと言うのだろうか。
閉じそうになるまぶたを必死でこじ開け、風祭は笑う。
その場が、ざわめくのが分かった。


「ありがとう・・・」



ここまで、引っ張ってくれて
パスを出してくれて
サッカーの楽しさを教えてくれて
一緒にサッカーしてくれて


数え切れない、思い出と、感謝の気持ち。
ありがとう。本当にありがとう。
また、僕ここに立ちたいんだ。
君と一緒に、サッカーがしたい。
だから、


待ってて。


僕が戻ってくるまで、その日まで、サッカーをし続けて。


「かざ・・・」
声が遠くなって、目の前が真っ暗になった。
でも、水野の顔だけは色あせない。
今日も、明日も、何年たっても。


僕の気持ちに気付く日は無いかもしれないけど、水野君。



好きだよ。


風が吹きぬける音にかき消されたその言葉は、目の前の君に届いただろうか。


 
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