■その一瞬を捕まえて■



水野はショーウィンドーの前に立ったまま溜息をついた。澄んだガラスが白くくもる。
そして、その店を後にした。本日7件目。

目当ての品は、プレゼント。



三上の誕生日が今日だということを水野はずっと知らなかった。
付き合い始めて約半年、お互いそういうことは訊きあわなかった。それにもかかわらず、三上は自分の誕生日を知っていて。
いつか訊こうと思っていたのに、素直になれなくて。それで今日まで先延ばししてしまったのだ。
藤代からのメールに書かれた一言。
三上先輩の誕生日は明日。
そんなこと、いきなりいわれても。プレゼントを考える暇も無い。直接商品を見れば、何か考えが浮かぶかもしれない。

そう思って、水野は外に出たのだが。


「・・・見つかんねえ・・・」
考えてみれば、三上の欲しいものが分からない、のではなく、水野は三上の趣味を知らなかった。
パソコンが好き、サッカーが好き。服は、何を着てたっけ?
どうでもいいときにふと思い出すことはあっても、肝心な時にそれを思い出せないのが人間だ。
水野もまた一人の人間で、だから、三上が何を欲しがるかなんて想像もつかなくて。
コートの袖を捲って、腕時計を見る。
只今、午後3時。急がないと、今日が終わってしまう。
水野はマフラーをしっかりと巻きなおし、次の店へと足を進めようとした。

その時。


「何してんだよ」
「・・・な・・・っ」
いきなり背後から、しかも耳元に声をかけられて、水野は思わず飛び上がりそうになった。
何でこんなにタイミングが悪いんだこの男は!!
三上の顔を見るなりに、プレゼントを選ぶ、という行為がすごく恥ずかしくなって。
水野は真っ赤になって俯いた。
「・・・水野、何百面相してんだよ」
「してねえ。ていうかアンタ何でここにいるんだよ」
「居ちゃ悪いのかよ」
「・・・別に」
本当はすごくよくない。
多分この男のことだから、この後の行動は自分と一緒にするんだろう。それじゃあ、プレゼントどころじゃない。
それに、本人が傍にいるというのは、すごく困る。それに、無茶苦茶恥ずかしい。
「用が無いなら俺は行くから」
この場から逃げる。
そう思ったのだが、いきなり腕をつかまれた。
「なに・・・」
「あれ?情報によると水野、オマエ俺のプレゼント買いに来たんじゃねえの?」
「・・・は?」
何で知ってんだよ!!
動揺を隠そうとしても、もう遅かった。目の前の男は自分を見ながらニヤニヤと意地悪く笑っている。
情報提供者、藤代。と。
目の前に彼のらしき青い携帯電話がぶらさがっていた。

ああムカつく、と三上を睨みつけると、先程までの意地悪い笑みは消えていて。
「プレゼントなんて、いらねえよ」
恐ろしいほど真剣なまなざしと、言葉。
これに弱い自分を知っていて、その上で、三上が狙ってやっている。そんなのは分かりきっているのに。

どうしても、慣れることが出来ない。

「何だよ、それ・・・」
いらないって。
じゃあ三上は何が欲しいんだよ。
結局自分は何も分からなかった。三上のことは。訊かないと分からないだなんて、情けない。
けれども、じゃあ、だなんて。訊けるわけない。
「・・・何なんだよ、アンタ」
「いいんじゃねぇの?俺の誕生日なんだし」
「最低」

だって、何も話してくれないんだから。






「なあ水野」
「なんだよ」
「さっきの取り消し。プレゼント寄越せ」
「・・・だって、まだ・・・」
語尾を濁らす水野に、んなの分かってる、と三上は呆れながら笑った。

「オマエさ、今日一日、素直になれよ」



・・・は?
「な・・・!どーいうことだよ」
また、先程の意地悪い笑いをした。水野はその顔を思わず殴りつけたくなる。
なんなんだよ、素直になれって。
「いいじゃねえか、俺の誕生日なんだし。一日ぐらい素直な水野君を見せてくれても」
減るもんじゃねーだろ、第一金もかかんねえし。と満足そうに言った。
素直になれ、だなんて。
「・・・じゃあ、何をすればいいんだよ」
「キス」
あとは誘え。
三上の口から放たれた言葉に、水野は思考が真っ白になった。最低中の最低だ、この男は。
「馬鹿言ってんじゃねえよ!!」
「大マジ」
「ふざけんな!!」
無理に決まっている。そんなことしたら、自分は多分一生この男の顔を見られない。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい・・・
「あぁ?恥ずかしがってどーするよ。今更」
「煩え!!」
真っ赤になっているであろう自分の顔を面白げに眺められる。最低。ホント最低。
けれども、逃げられない。
嫌なら一回、相手を蹴っ飛ばして逃げればいいのに、それが出来ない。
誕生日。
年に一度の、三上が生まれた大切な日。そんなのは分かっているけれど。
「・・・」
「何だよ、不満?」
「もう少しマシなの・・・」
「却下、つーとオマエ絶対やらねえしな」
じゃあ、代わりに。
今日一日、デートしろ。








辺りは暗くなり、日もすっかり沈んだ。
結局あの後は、デートというよりも普通の買い物。いつもと同じだった。それなのに、三上は何も言わない。
不満さえも。ただ、自分の歩調に合わせて、隣を歩いていくだけだ。
「・・・」
何で言わないんだよ、なにも。
結局いつも我侭ばかりを言っているのは自分で、三上はそれを聞いてくれている。
自分のことは何も言わないくせに、人のことは聞きたがる。その、三上が。
『キス』
たった一言の、短い言葉だったけれど。

三上が欲しいもの、それは。



「・・・おい、水野」
「え?ああ」
「ぼけっとしてると電信柱にぶつかるぜ?」
王子様が台無しだな、といつもの軽口をたたかれて。ムキになりそうになって、水野ははっと我に帰る。
三上はいきなり黙り込んだ水野の顔を覗き込んできた。どうやら心配しているらしい。
「オマエ、熱でもあるんじゃねえの?」

今日ぐらいは。
あと、5分ぐらいは。


ひどく近くにある、三上の整った顔。
その唇に、水野は自分の唇を押し当てた。一瞬だけの、誕生日プレゼント。触れた唇は、ひどくかさついていた。
「・・・っ」
一瞬、三上が息を呑んだ。
水野はというと、あまりの恥ずかしさに死にそうになって、三上から思いきり顔を背けた。
心臓の音が、止まらない。ああもう、最悪だ。
「やるじゃねえか」
「・・・ぶつかったんだよ!!」
ああそう。最後は素直じゃねぇんだな、と三上が呟いた。
「まだ、不満なのかよ・・・」
一体どこまで欲張りなんだ。
水野が三上を見上げると、ひどく優しい顔をして。


「・・・充分に、決まってんだろ」



だから反則なんだ、アンタは。



近づいてきた唇に、抵抗はしなかった。










目を瞑って、自分の口付けに応える水野がいとおしい。
実は三上は、今日が自分の誕生日だということを忘れていた。だから、別に欲しい物も何も無かった。
水野に言うのを忘れていた、と思ったら祭りごとが大好きな後輩が何故か水野に伝えていて。
そして、街に行ってみると、ショーウィンドウの前で鼻の頭を真っ赤にしていた水野を見つけた。
何かを必死に探していて、寒そうにして。腕時計をしきりに眺めていて。
それだけで本当はよかった。
ただ、少し欲張ってみたくなって。
自分から行動に移さない水野を、試してみたくなったのだ。
絶対に無理だと思って、だからわざと、水野を困らせることを言って。

本当は、理由がほしかっただけだ。水野と一緒に居る、口実が。


「まさかホントにしてくるとはな・・・」
かなり、ヤバかった。



「ああ、そうだ」

ふと、思い出したように、水野が声を上げた。

「何だよ」



水野は、少し赤くなりながら笑った。





「誕生日、おめでとう。三上」

いまなら、抱きしめても、何も言われないかもしれない。




うっわ、甘い。。。。
身体で支払え水野BY三上。お金がかかんなくていいじゃないですか、水野。
三上さん愛されてますね。



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