チェリー


首都圏は大雪に見舞われ、交通網は遮断されています。
お出かけの際には、十分ご注意を。

外が寒いと思ったら、朝から雪が降っていて、その所為で水野との約束の時間に30分も遅れてしまった。
それは自分の所為ではなかったのでそんなに怒られなかったが、水野は始終不機嫌だった。
明日は誕生日なのに、その話は一言も出ない。藤代は溜息をつきながらコーヒーを飲んだ。
記念すべき二十歳。かれこれ6年間付き合ってきて、祝われない誕生日なんて初めてだ。
元旦は家族で祝うことが両方とも恒例になっているから、時間を気にするなら、もう電車に乗らなければいけない。
「・・・水野、俺、帰りたくないー」
水野のマンションは広い。自分はまだ親と一緒に過ごしていて、一人暮らしをする気も無い。
羨ましいわけではないけど、一人で使うのには広すぎるような気もする。
「公園で寝てろ」
「いや寒いし水野冷たいー!!」
「時間、じゃねえの?」
今行かないと本当に間に合わなくなってしまう。
仕方なくバックを持って、席を立つ。せめて見送りに来てほしいんですけど。
もう忘れちゃったのかなーと落胆しながらマンションのドアを開けようとしたその時、
グレーのコートの端を引っ張られて、藤代は後ろを振り向いた。
「はい。これ」
茶色い封筒をいきなり手渡されて、藤代は目を丸くした。
のりづけもされていない。ただ、何かが入っているだけだ。
「・・・俺にくれるの?」
「藤代以外に誰がいるんだよ」
「まあ、それはそーだけど。開けていい?」
いいよ、という声が返ってくる前に中身を取り出した。薄っぺらい紙が一枚。
なにこれ、とそこに書かれたワープロ文字を読んだ。1月1日午後7時キックオフ。
「・・・これって・・・」
「天皇杯のチケット。藤代観たいって言ってただろ?」
かなり前に、一度だけしかも冗談交じりで「天皇杯、水野と一緒に観れたらいーなー」って言った、気がする。
けれどもまさか覚えてるとは思わなくて、藤代は目を丸くして立ち尽くす。
「俺も一緒に行くからな」
「え、うん」
水野が見せてくれたチケットの席は自分と隣同士だった。
一応誕生日プレゼント、とぼそぼそという水野の声を聞き逃すわけも無く。
大好きー!!と飛びついた。
「明日何時に待ち合わせ?」
どーしよう。俺、楽しみで寝られないかも!!と抱きついたまま言う。
水野に会えるだけでも嬉しいのに、そのうえ天皇杯まで観れるなんて!!
すると、急に俯いて、歯切れ悪く何かを言い出そうとしている。
「水野?」
「っだから、あのさ、」
「うん?」
えっと、と顔を赤くさせて、自分と目を合わせないようにして、小声で言った。
「・・・泊まってけばいいだろ。ここからのほうが国立近いし!」
嫌ならいいけど、とそっぽを向いてリビングに入っていってしまった。
もうひとつの驚きに、藤代は目を丸くした。
これは、もしかしなくても誘われてるんですか?
「・・・水野、秘め始めしたいの?」
「死ね!ばか!!」
靴を脱ぎ捨てて、リビングのソファーに座る水野を見つけた。そして自分も隣に腰掛ける。
顔を赤くして、先ほどからずっと俯いている水野がすごく愛しくなった。
「・・・だいすき」
「・・・ばーか」
くすくすと、二人で笑いあう、至福の時間。
誕生日にこういう時間を過ごせる自分は世界一幸せだ。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
雪がびゅうびゅうと窓に吹き付けてきた。外は白一色、音は聞こえない。
二人分の吐息、一人分の距離。
今年も、来年も、こうやって一緒にいたいなんて欲張りかもしれないけど、神様に願う。

静かに瞳を閉じて、どちらからともなくキスをした。


 
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